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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)48号 判決 1991年3月28日

兵庫県伊丹市荻野五丁目一七〇番地

控訴人

荒池正一

右訴訟代理人弁護士

竹田実

福本康孝

兵庫県宝塚市雲雀丘二丁目九番二二号

控訴人補助参加人

古澤正弘

兵庫県尼崎市上坂部二丁目四番一号

和辻潤治

右両名訴訟代理人弁護士

岡野英雄

兵庫県伊丹市千僧一丁目四七番三号

被控訴人

伊丹税務署長 玉城幹治

右指定代理人

杉浦三智夫

竹内健治

中田孝幸

堀内眞之

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用(ただし、参加によって生じた費用を除く。)は控訴人の負担とする。

3  参加によって生じた訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人補助参加人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和五七年一〇月二七日付けでなした昭和五六年分所得税の分離長期譲渡所得金額を五一九四万九六九二円とする更正(ただし、異議決定による一部取消し後のもの)のうち、譲渡所得金額二一七一万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税が二一万七一〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  主文第1項と同旨

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

左のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表について、九行目の「代金」から一一行目の末尾までを左のとおり改める。

「 ことによる所得のみであった。右売却代金は三五七〇万円であったところ、これから必要経費合計二九八万八二〇〇円及び特別控除額等一一〇〇万円を控除した残額は二一七一万一八〇〇円であり、これが控訴人の同年分の分離長期譲渡所得金額である。したがって、本件処分のうち分離長期譲渡所得金額が右金額を超えるものとしてなされた部分は違法であるから、その取消しを求める。」

2  原判決三枚目裏について、初行の「二項中」から三行目の末尾までを「二項記載の事実のうち、控訴人の昭和五六年分の給与所得の金額が二九一万円であったこと、控訴人主張にかかる土地を同年度に控訴人が訴外デシベルに売却し、その売却代金及び必要経費が控訴人主張のとおりであったこと、これについて一〇〇〇万円の特別控除があったことは認めるが、その余の主張は争う。」と、六行目の「前記土地」から九行目の「分筆し」までを「伊丹市荻野四丁目三三番の田四二〇平方メートルのうち一九八平方メートルを売却し、同年九月二八日、右三三番の土地を三三番一田二二一平方メートルと三三番二田一九八平方メートルに分筆したうえ」と、それぞれ改める。

3  原判決四枚目裏四行目の「その他の」を「その他」と改める。

4  原判決五枚目裏一二行目の「交換」を「譲渡」と改める。

5  原判決七枚目裏九行目の「あり得ないことである。」の次に左のとおり付加する。

「 右『やむを得ない事情』とは、納税者の主観的事情では足りず、納税者が法五八条三項所定の手続を履践しようとしても、その責めに帰すべからざる事由によりこれをなすことが不可能と認められるような客観的事情のあることをいうと解すべきところ、本件において控訴人が法五八条三項所定の手続をとらなかったのは、本件譲渡土地の処分について三〇〇〇万円までは税金がかからないとの和辻らの言葉を鵜呑みにし、本件交換と本件取得土地の兵庫県による買収とが一体のものであると誤信したことによるものであるから、控訴人の主観的事情によるものにすぎないうえ、本件交換と右買収とが別個の取引であることは何人にも明白であるから、控訴人が前記手続をとらなかったことについてその責めに帰し得ない事由があったとということはできず、本件において前記『やむを得ない事情』が存しなかったことは明らかである。」

6  原判決八枚目表初行の次に左のとおり付加する。

「3 信義則違反ないし権利濫用の主張について

本件処分が信義則違反ないし権利濫用であるとの控訴人の後記主張は争う。

和辻らは被控訴人とは何ら関係のない者であって、被控訴人は、本件交換には全く関与していないし、兵庫県とは別個の機関であるから、控訴人の誤信が和辻らの言葉によるものだとしても、本件処分が信義則違反ないし権利濫用になるものではない。また、租税の減免については、課税の公平を侵害するという側面もあるから、法令によって厳格にその要件が定められ、これに該当する場合にのみ減免されるべきところ、控訴人の主張は、公共機関の政策に協力したから減免措置をすべきであるとの主張に帰することになり、これを容認することはできない。」

7  原判決八枚目裏一〇行目の「公共用資産」を「公共事業用資産」と改める。

8  原判決九枚目表五行目から六行目にかけての「売却している」を「譲渡したことになる」と改める。

9  原判決九行目裏四行目の「兵庫県」の前に左のとおり付加する。

「 税金は国又は地方公共団体が反対給付としてではなくて一方的に国民に課するものであるから、課税は謙抑的であるべきであり、所定の免税要件に該当する場合には、軽微な過誤があったとしても、できるだけ免税を認める方向で法律の規定を解釈運用すべきである。本件において、控訴人は、本来措置法による特別控除を受けることができたのに、過誤によって二つの法律行為をしてしまったにすぎない。すなわち、」

10  原判決一〇枚目裏について、初行の「本件取得土地」の次に「の譲渡による所得」と、同行の「本件譲渡土地」の次に「の譲渡による所得」と、八行目の「同条五項」の次に「(平成元年法律第一二号による改正前)」と、それぞ付加し、一〇行目の「二 交換の特例の適用」を「三 交換の特例の適用」と改める。

11  原判決一一枚目表について、七行目の「かつ前記の次第で」を「かつ、前記のとおり、控訴人は、兵庫県から委託を受けた業者として県の代理人ないし代行機関のような形で行動していた和辻らの言葉を信用し、同人らからいわれるままに書類を作成し、」と改め、九行目の「申告し得るわけはなく、」の次に「前述した課税に当たっての法の解釈運用のあるべき姿からいっても、」と付加し、一二行目の「三 信義則違反」を「四 信義則違反ないし権利濫用」と改める。

12  原判決一一枚目裏二行目の「ある。」の次に「すなわち、控訴人において特別控除を受けられると考えたのが誤信であったとしても、それは兵庫県から委託を受けてその代行機関として行動した和辻らの言葉によるものであり、控訴人の誤信には公的機関が関与していた。」と付加する。

13  原判決一六枚目(別表一)の記載中、裁決のなされた年月日を「59・9・29」と改める。

第三証拠関係

原審の訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきであると思料する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目表四行目の「成立に争いのない乙第一二号証」を「成立に争いがない乙第二号証、乙第四号証及び乙第一二号証(弁論の全趣旨によって原本の存在を認めることができる。)、証人和辻潤治及び同前田武次の各証言」と改める。

2  原判決一二枚目表一一行目の「買収したこと」から同一二枚目裏二行目の末尾までを左のとおり改める。

「 買収したことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いがない甲第一、二号証及び弁論の全趣旨によると、被控訴人において、本件譲渡土地の譲渡による控訴人の収入すべき金額は右譲渡時の本件取得土地の時価に相当する金額であるとして、兵庫県による右買収価格に基づいてこれを三四三三万八三七五円と算定し、本件処分をしたことが認められる。」

3  原判決一二枚目裏について、六行目冒頭から九行目の末尾までを左のとおり改める。

「 ので検討する。控訴人において本件取得土地を継続して所有する意思はなく、控訴人は同土地を県営住宅の用地として兵庫県に売り渡すための前提として本件交換をしたものであったことは、後記認定のとおりである。しかしながら、課税の特例である措置法の規定を法令上の根拠がないのに拡張解釈することは許されないところ、本件交換と兵庫県による本件取得土地の買収とは別個の法律行為であるといわざるを得ないし、右のような場合に措置法の適用上両者を一体のものとみなすべき根拠もない以上、本件譲渡土地の譲渡について右特例を適用することはできず、控訴人の右主張は、その余の点について検討するまでもなく、これを採用することはできない。」

4  原判決一二枚目裏末行の「価格」を「価額」と改める。

5  原判決一三枚目裏について、三行目から五行目にかけての「農地等の権利移動の届出書(乙第五号証の二)、同許可申請書(乙第六号証の二)」を「同許可申請書(乙第六号証の二)、農地等の転用のための権利移動届出書(乙第五号証の二)」と改める。

6  原判決一三枚目裏末行から一四枚目表初行にかけての「原告にもそのことは容易に判明し得た」を「控訴人は、遅くともその時点で、本件譲渡土地を譲渡する相手方が兵庫県ではなくて訴外前田であることを知ったのであるから、同県に対する譲渡とは別の手続として本件譲渡土地を訴外前田に譲渡する事実を認識し得た」と改める。

7  原判決一四枚目表五行目の末尾に「なお、本件交換について、同条一項所定の取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した事実を認めるに足りる証拠もない。」と付加する。

8  原判決一四枚目裏初行の「採用することができない。」の次に左のとおり付加する。

「 なお、和辻らは、本件取得土地周辺に県営住宅を建設するために兵庫県の担当者から用地買収の取りまとめを依頼されていたが、県の機関として行動していたものではないし、仮にそうであったとしても、被控訴人は公的機関ではあるが県とは関係がなく本件各土地取引にも関与しておらず、前記事実を併せ考慮しても被控訴人のなした本件処分が信義則違反ないし権利濫用になるということはできない。」

9  原判決一四枚目裏について、二行目の「そうすると」から四行目の「点はなく」までを左のとおり改める。

「 前記のとおり、兵庫県は昭和五七年三月一八日に本件取得土地(四八一平方メートル)及び本件旧国有地(二三平方メートル)を合計三五〇七万八四〇〇円で買収したから、右買収金額は一平方メートル当たり六万九六〇〇円となる。そして、本件交換のときから右買収のときまでに本件取得土地の時価の算定に影響を及ぼす特段の事情はないとして、本件交換時の本件取得土地の時価を一平方メートル当たり右金額とみて三三四七万七六〇〇円であったとし、これが本件譲渡土地の譲渡による控訴人の所得であるとの被控訴人の主張は、これを肯認することができる。そうすると、本件譲渡土地の譲渡による控訴人の所得が右金額を下回るものとしてなされた本件処分に違法な点はなく」

二  以上により、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九四条、一九五条三項、八九条、九三条を適用ないし準用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中野信也)

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